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続追って追って追って以下同様 [ノート]

前回の最後に触れた地点列について、ちょっと解説しておこう。
まず、アキレスとカメのレースは前と同じ設定でおこなわれるものとして、直交座標系 O-XYZ を原点 O がアキレスのスタート地点に一致し X-軸がゴール向きにコースに添うようにとるとしよう。単位はメートル。時間の単位は秒としておく。これでコース上の地点を X-軸上の点によって表わすことができ、また、アキレスの百メートルの走りは時間を表わす数直線上の或る閉区間から X-、Y-、Z-軸それぞれへの関数の組によって表わされる訳だが、いまの場合、X-軸への関数だけを考えれば済むことになる。カメの十メートルの走りについても同様だ。そこで、F をアキレスについてのそうした関数、G をカメについてのそれとしよう。ただし、どちらの値域も X-軸上の区間 [0, 100] とする。ふたたび前と同じく、アキレスとカメは合図とともに一斉にスタートし淀みなく前進してゴールに入るものとすれば、F も G も狭義単調増加と考えられる。ここでさらに数学的に必要なのは連続性だけなのだが、一応どちらも二階導関数をもつとしておく。加えて、アキレスの方がカメより先にゴールに入るものとする。
そこで、仮定から F は逆関数 invF をもつことになるから、それと G を用いて、正整数全体から X-軸上の区間 [0, 100] への写像 B を、B(1)=90、B(n+1)=G(invF(B(n))) として再帰的に定義すれば、次が成り立つ: どんな正整数 n についてもそれに応じて時点 t がひとつだけ在って、B(n)=F(t)、B(n+1)=G(t)、B(n)<B(n+1)<100。
これで問題の地点列 {B(n) | n は正整数} が得られたことになる。(以下ではこれを「{B(n)}」と略記する。)
写像 B に関しては次のようなことが云える。
「どんな正整数 n についても、アキレスの x-座標が B(n) である時点におけるカメの x-座標は B(n+1) であり、B(n)<B(n+1)。したがって、どんな正整数 n についても次が成り立つ: 区間 [0, B(n)] に属すどんな点 a についても、アキレスの x-座標が a である時点におけるカメの x-座標は a より大きい。」
これを次のようにパラフレーズしてみよう。
「地点列 {B(n)} に属す何れの地点についても、アキレスがそこに達する丁度その時に、カメは、列 {B(n)} におけるその地点の直後の項である地点へと、アキレスに先んじて達する。したがって、{B(n)} に属す何れの地点についても、アキレスは、カメにリードを許したまま、そこに達することになる。」
ここで、アキレスが {B(n)} に属す地点に達することをその運動におけるひとつのプロセスとかイヴェントとかと考えることができるとすれば、{B(n)} は狭義単調増加の無限列なのだから、アキレスがカメを追い抜いたあかつきには無限のプロセスなり何なりが完了していることになるが如何に? という訳で、ようやくパラドクスめいた雰囲気がでてきたところで、この話題はもう終えることにして、最後に、写像の再帰的定義について付け加えておこう。
その裏には次のような定理(いわゆる再帰定理あるいは帰納定理)がある:
S を何らかの集合、a をその要素、f を S から S への写像とすれば、次のような正整数全体から S への写像 g がひとつだけ存在する: g(1)=a、どんな正整数 n について も g(n+1)=f(g(n))。
証明は省くが、g は或る条件を充たすあらゆる集合の共通部分として特定される。(構成されるのではない。そもそも集合は対象を集めることによって構成されるようなものではない。)このユニークに存在する g を、g(1)=a、g(n+1)=f(g(n)) という条件を示して指定するのが再帰的定義である、という構図になっている訳で、上の写像 B がこれに当てはまるのは明らかだろう。古典数学(いわゆる古典論理にもとづく今日のスタンダードな数学)は謂わば超越的なかまえをしていて、その点がどうも胡散臭く感じられないでもないものの、ともあれ、再帰的定義が無限のステップを一挙に完了するマジカルな手続きなどでないことはたしかだ。
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